コロナ禍で落ち込む鹿児島の観光業を盛り上げたい、
城山観光が見せたプライド
日本全体を突如襲った新型コロナウイルスは、さまざまな産業に大きなダメージを与えた。とりわけ地域や国をまたぐ人々の往来が消えたことで、観光業は深刻な状況に陥った。約400ユーザーが「desknet's NEO」を日々利用するという大規模導入企業であり、鹿児島を代表するホテルを運営する城山観光もその煽りを受けた。
そこから再び浮上すべく、同社はどのような取り組みを行ったのだろうか。
夜空に浮かぶHOPEの文字
2020年4月、鹿児島市の中心部の空に突如、「HOPE」の4文字が浮かび上がったことが話題となった。
これは、新型コロナウイルスの影響を受けて苦しんでいる人たちなどを応援しようと、市内の高台に建つ「SHIROYAMA HOTEL kagoshima」(城山ホテル鹿児島)が部屋の照明を使って文字をつくった粋な計らいだった。その後も、ホテルの臨時休館日に合わせて、「チェスト(鹿児島弁で気合を入れるときの掛け声)」や「ハルヨコイ」といった文字が点灯されている。
「今は耐えて頑張ろうという気持ちになってもらいたくて実施しました。皆さんの心に響くメッセージになれば」と、城山ホテル鹿児島を運営する城山観光の常務執行役員の渡千左代さんは振り返る。
コロナ禍は同社にとっても他人事ではなく、売り上げは半減した。このメッセージには自らをも奮い立たせる意味もあっただだろう。ただ、それ以上に、鹿児島を代表する企業として、地域を幸せに、豊かにしたいという強い思いがあった。
「鹿児島の街を活性化するお手伝いをしたい。それが私たちの役目だと思っています」
城山ホテル鹿児島がこの地で果たすべき役割とは——。
コロナ前は過去最高売り上げを記録
城山ホテル鹿児島は、1963年に「城山観光ホテル」として開業。その名にある通り、城山という鹿児島市内の小高い山の上に立地する。この城山は桜島と市街地が一望できる鹿児島屈指の観光名所であり、西南戦争の最後の戦地としても知られている。
そんな風光明媚な場所に建つ同ホテルは、「鹿児島の迎賓館」を合言葉に、一流のサービスを提供するホテルとしてブランドに磨きをかけ、成長してきた。近年はインバウンドを追い風に売り上げが急上昇。2018年度は過去最高となる約92億円を記録した。
その好調ぶりを支えた一人が渡さんだ。新卒で入社し、フロントや予約業務などを経て、営業部に配属されると、高校時代に米国留学経験で身に付けた英語力を武器に海外を飛び回った。数々の商談を重ねては多くの外国人観光客を鹿児島に呼び寄せた。外国人にとって城山ホテル鹿児島の魅力はどのように映っているのだろうか。
「山と海、市街地が一緒になった景観はほかでは見たことがないと感動されますね。しかも、それが活火山というのはさらに珍しいでしょうから」
18年度以降もビジネスを加速させるため、ホテルの改築工事に着手するなど、多くの顧客を受け入れるための万全の体制を整えていた。その矢先、城山ホテル鹿児島をコロナが襲いかかる。20年度の売上高は約42億円と、ピーク時から50億円もの大幅減収となった。
「大きな案件の延期が相次ぎ、すべての売り上げが落ちてしまいました」
しかし、そんな中でもしっかりとやるべきことを見据え、手を打ってきた。それが徐々に成果として現れていった。
地域から安心感を得る
コロナ禍において、何よりも先に城山ホテル鹿児島が着手したのが、安全対策である。全国的に見て鹿児島の感染者数は少なかったが、東清三郎社長のトップダウンによって東京並みの強固な感染対策を実施することになった。
渡さんも大型商業施設などを回り、最新の感染対策の取り組みを見聞きしては、矢継ぎ早に自社に取り入れていった。例えば、ホテル内の会場ごとにアクリル板を設置したり、「密を防ごう」「感染対策に協力を」などという標語が書かれた看板をあちこちに備え付けたりした。この対策には相当な費用を要したが、この先回りが功を奏した。
「どこよりも早く取り組んだおかげで、城山ホテルは安心だという認識が広まりました。20年の夏にはビアテラスを開くこともできたほどです。その後も実績を積み重ねていき、われわれはこういう対策を施しているとアピールしていきました。結果的に、大人数が集まるようなイベントでも城山ホテルなら安心だと、地域の信頼を勝ち得ることができました」
法人向けの会議利用なども増えていった。とはいえ、まだ会食をセットにすることは難しかったため、機転を利かせて、宿泊券や食事券を販売する企画を実施したところ、好評を博した。
「忘年会、歓送迎会をできない企業が多かったため、代わりに社員の福利厚生、あるいはお得意先への贈り物として、レストランの食事券などを提案しました。多くの県内企業にご購入いただけましたね」
テイクアウトも好評
感染対策と並行して、少しでも収益を積むために、レストランのテイクアウトサービスを始めた。実は、同ホテルでは食中毒などのリスクからこれまで一切やってこなかったが、背に腹は変えられなかった。
ただ、歴史ある同ホテルのレストランには固定客やファンがついているため、ひとたび始めてみると、「自宅であの味が食べられるなんて」と皆がこぞって買いに来た。中華やフレンチ、割烹など各レストランのシェフもモチベーションが高まり、次々とメニュー開発を進めていった結果、この施策で1億円を超える売り上げを叩き出した。
その後、コロナ禍が少し落ち着いたタイミングで、テイクアウト営業は縮小させたが、顧客の中には頻繁に買い求めに来る人もいて、「やめるにやめられない」とうれしい悲鳴が上がっている。
修学旅行生にテーブルマナーを教える
もう一つ、城山ホテル鹿児島が積極的に取り組み始めたのが、修学旅行生の受け入れだ。コロナで県外へ行けなくなった鹿児島の小中学生を中心に利用してもらった。地元の人にとって城山ホテル鹿児島は憧れの場所であるため、子どもたちだけでなく、その家族も喜んだという。
ただ泊まって終わりではなく、そこはサービス精神に溢れる城山ホテル鹿児島である。教育プログラムを組み込んで、夕食時にテーブルマナーの講座を開いたのである。加えて、食品ロス対策をはじめ同社のSDGsの取り組みも紹介。学校でもこの分野に対する意識は高まっているため、具体的な事例が聞ける場として生徒たちも興味を持った。
「これまでも売り上げを伸ばすために修学旅行受け入れの議論はありましたが、予算感や他の宿泊客との兼ね合いもあって実現には至りませんでした。今回のコロナがきっかけになったわけですが、実際、当社にとっても100人、200人単位で団体客が来てくれるのはありがたいです」
できることをやり続けた結果、21年9月ごろにはコロナ不況の底を打ったという手応えをつかむこととなった。
社内異動で輝いた社員
そんな城山ホテル鹿児島にとっての最大の強みは「人」だ。実は、特別な教育プログラムがあるわけではなく、後輩社員は先輩からOJT(On the Job Training)で学ぶのが基本スタイルだとする。
ただ、ホテルの仕事は多岐にわたるため、社員はジョブローテーションが頻繁にある。それによって多種多様な経験を積み、スキルアップできることも大きい。その実績を生かして、繁忙期には別の部門の業務をサポートするなど、一人一人がマルチタスクをこなせるようになる。
ホテルに仕事が多いことは別の価値も生んでいる。社内異動によって、これまで見えなかった力を発揮する社員が出てくることもあるのだ。渡さんはある男性社員の例を紹介する。
「元々は別のセクションにいた社員でしたが、仕事がうまくいっておらず、営業部に異動させました。周囲も心配していましたが、顧客に対しても忠実で、きちんと案件を獲得できるため、どんどんポジションが上がっていきました。さらに、今は営業部を離れて清掃管理部門の部門長として活躍しています。彼が入ったおかげで、それまでギクシャクしていた部内のコミュニケーションが改善されたほどです」
本人も含めて、やってみないとどこに適性があるか分からない。この社員の成功はその証左となった。今ではこうした考え方が社内に広がっている。「今までだったら既定路線の中でしかキャリアパスがなかったのですが、思い切って異動させる人事に変わりました」と渡さんは力を込める。
本人の長所を伸ばせるように配置転換することは、離職率の抑制にもつながっている。
顧客の声を可視化
人材育成によって、一流ホテルとして、一流のサービスを顧客に提供できるようにするのはもちろんのこと、その質を高める努力も城山ホテル鹿児島は怠らない。
数年前から顧客の声を可視化する仕組みを構築。毎日現場から上がってくる顧客データを集計し、部門ごとに分析した上で、毎月の経営会議で報告するようにした。顧客の声は、自前のアンケートなどだけでなく、ホテルのクチコミサイトやSNSなど、あらゆるところから抽出している。これを常に繰り返しているのだ。
「忙しいから仕方ないよねと流すのではなく、一つ一つ検証して、どういう時にこういうことが起きたのかを認識し、それを関係者にフィードバックして、今後の改善策を出してもらっています。今では仕組みとしてでき上がっています」
このような直接の声も含めて、社員は顧客に育てられている感覚があるという。特に古くからの常連客が多いため、若い社員よりも顧客の方が「城山とはこうあるべき」だという思いを持っていることもあるそうだ。これこそが城山ホテル鹿児島の伝統だと渡さんは言い切る。
鹿児島をもっと活性化したい
鹿児島を代表する企業として、城山ホテル鹿児島が地域でできることはまだまだ多いという。特に海外を見てきた渡さんにとって、鹿児島の観光に対する訴求力が足りないと感じている。
「人を呼び込めるようなまちづくりが必要です。海外へ行ったとき感じるのは、街全体が観光客の目線に立ったインフラやサービスを提供している点です。鹿児島ももっと活性化して、魅力が伝わるまちづくりができればいいなと思います。そのためには地元のステークホルダーと連携することが不可欠。私たちだけでは人を呼べませんが、ホテルはハブになる存在ではあります。いろいろな企業や行政とつながり、手を携えてやっていきたい」
今のようなコロナ禍の状況が続く限り、インバウンド需要がすぐに戻ることは難しいかもしれない。しかし、再び需要が来た時に慌てるのではなく、鹿児島が世界から選ばれる訪問先となるために、今からやっておくことはあるはずだ。世界中の人たちをおもてなす「迎賓館」としての気概を持って、城山ホテル鹿児島は来るべきその日に向けて準備を進めていく。
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